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2008年2月 7日 (木)

 突然、うららか過ぎるほどになめらかな歌が聞こえてきたと思ったら、木漏れ日の中に君はいた。どこかで聞いたことがあるような無いような、何の歌かは浮かんでこないが、とてもやさしい歌だった。

 「その歌は、何ていう歌だったかな?」

僕は自分の出来うる限り柔らかな声で尋ねた。本当は口を挟みたくなかったが、君に話しかけたい気持ちが勝ってしまった。

 「嫌い?」

今度も突然歌うことを止め、僕に返してきた。

軽く木漏れ日が揺れた。

 「そんなことはない。」

 「じゃあ、よかった。」

君はそっと微笑んだ。かの歌は、特に好きというわけではなかったが、確かに嫌いではなかった。君は少しだけ眩しそうに目を細めながら、再び歌い始めた。

君が一体何曲歌ったか、分からなくなった。それらの中に知っている歌もいくつかあったが、大半はやはり記憶の曖昧な歌達だった。僕は、君の隣の木漏れ日に場所を移した。けれど、話しかける気持ちはもうしなかった。その必要はとうに消えうせていた。

 「退屈かしら?」

 「え?」

歌の途中で、まさか君から言葉を出すとはまったく考えていなかったから、驚いて返事が出来なかった。

 「あなたは、私といて、退屈かしら?」

君はより噛み砕いて、そしてわずかに不安げに僕に投げかけた。

ぐっと、木漏れ日が揺れた。

 「全然、退屈じゃない。」

君は言葉ひとつ返さなかった。その代わりに、前よりも大きく微笑み、そして歌の続きを歌いだした。退屈なわけが無かった。もちろん、僕と君との間では、ほとんどと言っていい位に生産的な、建設的な活動は行われていなかったが、それは退屈かどうかとは別次元の問題だった。

 「むしろ、楽しいさ。」

僕は、自分に言い聞かせるかのごとく呟いた。当然、そこに嘘は無かった。

静かに木漏れ日は揺れ、静かに君は歌い続けた。

 「もっとずっと、この声で歌を聴いていたい。」

君はゆっくりと微笑み、またやさしい歌を歌い続けた。

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 今の心持ちというか、感情というか、そういったものが滲んで出てしまっている。

 こと創作している文章に関しては、少なくとも自分の視点としては、自分のリアルな感情はあまり関わらせないようにしているのだけれど、時にこうなってしまう。

 優しい声が、聴きたい。     circus

 

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